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青ネギ「箱崎小町」を多くの人に知ってもらい、箱崎の農業を絶やさず次世代へ繋ぎたい

福岡市東区箱崎・川嶋正信さん(38)

「いつかは農家に」と考えていた子ども時代

 戦前から代々続く農家の長男に生まれた正信さん。子どもの頃から漠然と「自分もいつかは農家になるだろう」と思っていたそうです。物心つく前から田んぼで遊び、成長するにつれて自然と田植えや稲刈り、ハウスでの作業を手伝っていたといいます。「子どもの頃は、田植えの時に苗箱を運んだり洗ったりの簡単な作業をしていましたが、そのうちビニールハウスの張り替えなど力仕事も手伝うようになりました」と振り返ります。高校卒業後は、将来のことを考えて農業大学校へ進学したものの、「一度は好きなことを経験したい」と、自動車関連の仕事を一年半ほど経験し、22歳から就農して16年。今では管内を代表する農産物「箱崎小町」の生産者として、若手農家の一翼を担っています。

マイルドな味わいの青ネギ「箱崎小町」を周年栽培

 かつては軟弱野菜の一大産地だった箱崎地区。正信さんの父 正光さんは、市街化が進む中、限られた農地で農業経営を続けるために、「生産緑地制度」を利用して平成11年から水耕栽培の青ネギを、ハウスで周年栽培し始めました。正信さんは、夏場は播種から60~70日、冬場は100日ほどかけて収穫、出荷しています。常に水分を吸収し続けて生長するため、土壌栽培に比べてくせがなく、マイルドで食べやすいと評判です。現在は、ハウス2棟(約3反)で年間約2トン生産し、市場の共販をはじめ地元スーパーや愛菜市場等へ出荷。福岡市内の小学校給食でも使われています。昨年は、福岡市農林水産局が取り組む「福岡市内産農産物ポテンシャル調査事業」において、個性が光る市内産農産物4品目の一つにも選ばれました。

「安定出荷」するために日々努力

 青ネギを栽培するにあたり、正信さんが気を付けていることは、「安定的に出荷し続けること」だといいます。栽培から出荷までの中で、安定出荷のために様々な努力や工夫をしています。風速50メートルの台風にも耐えられる全天候対応型のハウスを採用したり、播種の時期をずらして計画的に青ネギを育てるなど、天候不良や病害虫による不測の事態で出荷が滞らないよう、設備のメンテナンス、栽培量の管理を徹底しています。また、ハウスが住宅街の中にあるため、24時間稼働するポンプ音に気を配り、近隣住民に配慮しながら農作業をしています。今の課題は夏の暑さによる出荷の低下。特に7月から9月までは、生産量が減ってしまうことが悩みだといいます。「夏場は青ネギ自体の対策や作業時間の変更などもしていかなければならないと感じています」と話します。

消費者の反応が一番のやりがい

 「家庭の常備野菜」をめざし、美味しくて安全安心な青ネギを安定出荷できるよう、日々努力を重ねる正信さん。一番のやりがいは、消費者の声。「自分が作ったものを店頭で手に取る人を見かけたり、実際に食べた人から『美味しかったよ』と言われると嬉しいし、これからも頑張って作ろうという原動力になりますね」と笑みがこぼれます。

変わりゆく箱崎の景色の中で持続可能な農業を

 次世代を担う正信さんの今後の目標は、「もっと多くの人に『箱崎小町』を知ってもらうこと」だそうです。そのために、JAと一緒に青ネギの新品種を試したり、福岡市の事業に協力したりと、積極的にPRにも取り組んでいます。「箱崎の町の景色もこの20年ほどで大きく変わり、私が子どもの頃と比べて農地も減りました。しかし、戦前から続く農業の歴史を次世代に繋ぐために、できる限り頑張っていきたいです」と力強く話してくれました。

(令和5年12月取材)