農業者インタビュー
ホーム  農業者インタビュー  予期せぬ出来事を経験し決意した農の道 秦さんの農業を守り続けたい

予期せぬ出来事を経験し決意した農の道 秦さんの農業を守り続けたい

東区香椎下原・笠井宏美さん(44)

今回は香椎下原地区等で農業に取り組む笠井さんにインタビューしました。笠井さんは(株)マイファームに所属し、イチジクの生産や学生への農業指導等の傍ら、同地区のベテラン農家秦英紀さんの果樹園で農業に励んでいます。今月号では、就農までの道のりや農業への思いについて伺いました。

 「両親は非農家ですが、祖父母が農家だったこともあり、農業の原体験は祖父母の畑です」と話す笠井さん。農業に興味を持ったきっかけは、東京でスポーツトレーナーとして働く傍ら、オーガニックレストランに勤務する中で山梨県の農家と出会ったことです。元々、太陽の下で体を動かすことが好きだったこともあり、農作業を通して野菜を育てる喜びや奥深さに魅了されました。その後、スポーツジムの人事異動で地元へUターン。同時期に地元で親戚の休耕地を借りることができ、独学で野菜作りに没頭する日々が始まりました。「大した野菜は作れませんでしたが、出来た野菜を山梨の農家に持参して見てもらっていました」と話す笠井さん。しかし、一年半ほどで休耕地が使えなくなり農業の道は一度幕を閉じます。その後は「休耕地の情報が手に入るのでは」という思いから不動産会社に転職。14年勤務し店長まで務めました。その間も農業への思いは消えず、家のベランダや店先で野菜を育てお客さんにあげたりしていたそうです。
 転機となったのは2016年に大怪我を負ったことでした。「今まで前だけ見て走り続けていたので、怪我を機に初めて人生を振り返ったり命について改めて考えました。その中でやり残して後悔していたのが農業でした」と当時を思い返します。さらに、手術後は無欲の精神状態だった笠井さんが「ミニトマトを育てたい」という小さな思いを抱いたことも再び農業の道へ背中を押しました。不動産会社に復職後は後任を育成し退職。2019年に(株)マイファームへ入社し、本格的に農業の世界へ飛び込みました。知識もほとんどない状態でのスタートでしたが、3カ月の研修を経て、新宮町でイチジクの栽培を開始。現在は有機JAS認定を受けて栽培を続けています。
 そして2024年に、JAを通じて秦英紀さんの果樹園を引き継ぐ機会が巡ってきます。当初は地元に住む知人を推薦しようと考えていましたがタイミングが合わず、熟考した末に自ら挑戦しようと決意。(株)マイファームの支援を得て業務を調整し、秦さんから栽培技術を学びながら、約25種の柑橘を管理しています。笠井さんは、秦さんの農業について「例えば、スナップエンドウの誘引の仕方や、トマトを仕立てる際の麻紐の結び方など、農作業一つ一つに無駄や迷いがありません。長年の経験に裏打ちされた規則性があり、日々多くのことを学ばせてもらっています」と話します。秦さんの温かい人柄にも助けられ、深く敬意を抱いているそうです。一方で、限られた時間で膨大な技術を一人で習得することは難しいと考え、「有志の農業仲間と協力して秦さんの技術を学び、作物ごとのプロフェッショナルを育てる」というビジョンを描き、農地と技術の継承に挑んでいます。
「農業の道に再び飛び込んでよかったと思っています。毎日が楽しいです!」と笑顔を見せる笠井さん。託された農地を守り、次世代へ繋ぐため、これからも情熱を注ぎ続けます。

 笠井さんが管理を始めた果樹園で採れた農産物は、エフコープ新宮店・舞松原店、マックスバリュ下原店、フードウェイ久山店に出荷しています。ぜひ手に取ってみてください。